uzocotrip

フィンランドから鎌倉へ。暮らし、旅、映画にまつわる日々のメモ

59. 『寝ても覚めても』

f:id:uzocoya:20180720110147j:plain

今年のカンヌ国際映画祭で、みごとパルムドールに輝いた是枝裕和監督の『万引き家族』とともに、日本からコンペティション部門に正式招待されたもうひとつの作品、濱口亮介監督の『寝ても覚めても』の試写を見に行ってきました。
 
 
原作は、柴崎友香の同名小説。舞台の始まりは大阪。あらすじは、主人公の朝子は、の写真展で出会った青年・麦と運命的な恋に落ちる。親友からは麦は「好きになったらいけないタイプの男」だと忠告されながらも、すっかり麦に夢中の朝子。風来坊で、気の向くままどこかへ行ってしまう麦は、ほどなくして朝子の前から突然姿を消してしまう。数年後、東京の喫茶店で働く朝子の前に、麦と瓜二つの会社員・亮平が現れる。思わず亮平を避ける朝子だが、そのそっけない態度が逆に気を引いてしまい、朝子に惹かれていく亮平。そして、朝子も亮平を好きになっていくのだが…。
 
 
人は、どうして人のことを好きになるんだろう?
どうして、他のだれかではなくて、その人じゃないといけないんだろう?
 
最後まで、ストーリーの結末がまったく読めなくて、
朝子の心理を中心に動いていく物語と一緒に、壮大な旅をした気分になりました。
 
正しさというものさしをいったん横においておいて、
濱口監督の世界観にどっぷり浸ったら、もっと続きを観ていたいような淡く心地よいエンディングでした。
 
 
主役を演じるのは、本作が初めての本格演技という新人女優の唐田えりかさん。まだ色んな作品に出ていないので、女優さんのイメージが固まっていない分、演技もすごく新鮮で、朝子という女性の役どころを先入観をもたずに見ることができました。この物語では、それがすごくよかった。
 
黒目がちでとてもかわいらしい女優さんですが、ものすごく個性があったり特別な美人というわけでもなく、ふつうに街中にいそうな女の子なのがまた観客との距離を近づけるように感じました。
 
はじめはふんわりしていて、どこかつかみどころがなくて、放おっておけない感じの女の子だったのが、映画の流れとともに、だんだん意思がはっきりしてくるんです。そこも映画の不思議な力。
 
一人二役を演じた東出昌大くんの演技の幅にも驚かされました。優等生タイプ、誠実そうな好青年というイメージがありましたが、本作をとおして見せてくれる色々な表情や演技が素晴らしかった!
 
 
そしてもうひとつ、8年間という長い時の流れが、しっかり時代とともに描かれていること。ふたりのラブストーリーを軸に、日常の風景が流れていくなかで、ときおり社会的な出来事が背景に描かれていたのも印象的でした。
 
例えば、ラジオで秋葉原の事件ことに触れられていたり、震災の描写、東北のエピソードが盛り込まれていたりしますが、10年前に発売された原作を、今回の映画化にあたって脚色したそうです。そんなところにも、濱口監督のこだわりが。
 
 
大人になると、毎日が忙しくて、
恋愛をした昔のことをとっくに忘れてしまった人も多そうだけれど、
この映画を見ている間だけは、なにかをジャッジしようせず、
ただただ人を好きになった、あの気持ちを思い出して、見てみてください。
 
映画『寝ても覚めても』は、9月1日(土) 全国公開です。