uzocotrip

フィンランドから鎌倉へ。暮らし、旅、映画にまつわる日々のメモ

68. 『ひとよ』イオンシネマ シアタス調布

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毎月映画を見る会を企画してくれる友人が、今月の1本に選んでいたので、きっとおもしろいはず、と、観に行ってきました(彼女の映画を選ぶセンスが好きなんです)。
 
劇団KAKUTAの舞台の作品を、『凶悪』『凪待ち』の白石和彌監督が映画化。家族を描いた人間ドラマで、出演は佐藤健松岡茉優鈴木亮平、田中裕子と、気になる役者さんの名前がずらり。
 
 
物語は、田中裕子演じる一家の母親が、子どもたちに暴力をふるう父親を殺める、ある一夜のシーンから始まります。もう、子どもたちが暴力に苦しまずに、好きに生きられるようにと。そして、罪をつぐない15年後に戻ってくると約束し、姿を消した母親が、約束のとおり、ちょうど事件から15年後の晩に帰ってきます。
 
15年後、どもり症で気の優しい長男は、別居中の妻から離婚をせまされ、小説家を目指す次男は、うだつが上がらない週刊誌の記者として働き、末娘の長女は美容師の夢を諦め、スナックで働いていました。
 
父親からの暴力はなくなった一方で、15年もの間、「犯罪者の子ども」という世間体に苦しみ続け、思い描いた自由とはかけ離れた現実を生きる3兄妹は、突然の母の帰宅に戸惑い・・・。
 
 
バイオレンスやホラーものが苦手なわたし、白石和彌監督の映画を今回初めて観ましたが、ずっしりとした重みや暗さのなかに、くすっと笑える場面や、あたたかさもあり、味わい深い余韻の残る、家族の物語でした。
  
まっすぐに心に刺さったのが、母親のひとこと。
「いま、私が謝ったりしたら、あの子たちが、迷子になっちゃう」
 
罪をつぐない、噂が風化する頃合いまで、ひとりでなんとか生き抜いて、
子どもたちの複雑な思いも覚悟のうえで、約束どおりに帰ってきて、
15年の不在を、これっぽっちも気にするそぶりを見せずに、
毅然として、また日々を生きているおかあさん。
 
なんて、強いひとなんだろう。
強さ、というのとは、すこし違うのかもしれません。
でも、自分のきもちを横に置いておいて、とにかく、子どもを迷子にはさせてはいけない、という強い意志が、全身からにじみ出ていて、この人すごいなあと思いました。
 
田中裕子が、むちゃくちゃ、かっこいい。
 
ほんの少し、再生の光がみえた物語のエンディングでは、
すっかり4人の役者さんのファンになっていました。
 
おもしろい映画を観終わって後の高揚感、
あのワクワクが久しぶりに。
よい映画時間でした。