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フィンランドから鎌倉へ。暮らし、旅、映画にまつわる日々のメモ

67. 『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ

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2019年度の本屋大賞 受賞作。
「家族よりも、大切な家族」という帯に書かれたコピーに惹かれて、
瀬尾まいこさんの小説をはじめて読みました。
 
最近たまたま、身近なところで
養子縁組の話題を耳にすることが何度かあって、
いろいろな「家族」のことを、ぼんやりと考えていたところでした。
 
 
小説の主人公は、幼い頃に母を事故で亡くし、その後もさまざまな事情から、
リレーのように育ての親が次々に代わった経験を持つ、17歳の森宮優子。
 
彼女を中心に、高校生活の日々を描いた第一章と、
その数年後に結婚を控える優子が、育ての親をめぐる旅をする第二章からなる、あたたかな感動作です。
 
母親が2人、父親が3人。
17年間に、苗字が4回も変わったと聞くと、
それだけで、とても複雑で込み入った家庭の事情を想像するし、
幼い頃から苦労をしてきた、かわいそうな子だと思ってしまうかもしれません。
 
でも、そんな育った環境からはかんたんに想像しにくいほど、
主人公の優子は、明るくおおらかで、まっすぐな性格の女の子。
そして、優子の周りにはいつも、血がつながっていない彼女のことを、
どこまでも大切に思い、愛情を注いでくれる親たちがいました。
 
 
家族ってなんだろう。
親と子ってなんだろう。
 
ドラマチックな展開や、スリリングな事件が起きるわけではないものの、
いろんなカタチの家族のあたたかさに触れられる、愛にあふれた一冊。
最後は、優子を囲うすべての大人たちを思わずギュッとしたくなる、
すてきな結末です。

66. ちいさな地球、パリからのお客さん

今週末は、パリから留学時代の友人が旅行に来ていたので、
わたしと夫と、外国人4人を連れて、中目黒の焼き鳥屋さんに行ってきました。
 
海外から友人がくると、じつは家に呼ぶのがいちばん楽だったするのですが、
今回は日中の予定もあったので、都内で会うことに。
 
せっかくなので日本っぽい雰囲気のお店をと思って、
たたみに座って、七輪を囲んで焼いて食べるスタイルのお店にしました。
焼鶏あきらさん、英語メニューもあるので、外国人を連れて行くのにおすすめです。
 
友人が今回は彼氏と友だちふたりの4人で日本に来るというので、どんな間柄なのかなと思っていたところ、あらわれたなかには、初老のおじさまもひとり。
 
フランス人の友人と、ポルトガル人の彼氏。
それに、友人の男友だちがもうひとりと、その彼の妹さんの彼氏のお父さんの4人で旅をしているのでした‥!
 
もしわたしだったら、
お姉ちゃんの旦那さんのお父さんと旅行なんて、
とてもとても気を使ってしまいそうだし、
男友だちも一緒で彼氏はいいのか?とか、
むだに、ことをむずかしく考えてしまいそう。
 
だけど、さすがはヨーロッパの人たち、立場とかではなく、
ひとりの人として、みんなが自然に接しあっているようすがとてもフランクで、
だれかが気を使っているという感じがなく、見ていてとっても気持ちのいいものでした。
 
なんてすばらしい関係性なんだろう。
 
さらに、そのお父さんがまたユーモアたっぷりな愛すべきおじさま。
撮った写真はほとんど舞妓さんや、着物姿の女の子ばかりで、
「帰ったら奥さんに何て説明しよう」と茶目っ気たっぷり。
 
 
もうひとつ、感動したのが、言葉の壁。
 
夫はフランス語が話せず、
友だちの彼氏とおじさまは英語が話せない、という状況で、
基本はフランス語で会話をしながら、
友人がわたしの夫に英語で同時通訳をしてくれて、
わたしもときどき日本語で話したり、
ポルトガル人の彼氏に夫がスペイン語で話しかけたり(?)
おじさまのフランス語と夫の英語で意思疎通できていたり。
 
はたから見てたら、きっとこの人たち何語で話してるんだろうという
不思議な光景だったと思いますが、謎に会話が成り立っていたんです。笑
 
 
まるで、ちいさな地球!
 
 
言葉が話せないことを気にもせず、
コミュニケーションをとろうとしてくれるのがとてもうれしかったし、
そんなところにも人生のたのしみ方があるんだなと教わりました。

65. わたしのリトルプレスを、本屋さんで買ってくれたあなたへ

生まれてはじめて、自分でつくって、自分で本屋さんに置いてもらった、旅のリトルプレスを、 知らないだれかが買ってくれたことが、こんなにもうれしくて、感激して泣きました。笑
 
世界を旅して見たり感じて、心地よさを感じた世界が、だれかのちいさな希望になればと思って、 いつも書いてる旅日記と写真とイラストの、手づくり感たっぷりでつくりはじめた旅冊子。vol.5までつくったところで、本屋さんにもっていこうと決めていました。
 
でも、いざvol.5までつくってみたものの、大好きな京都の本屋さんにはお断りされてしまい、しばらく置いてくれていた本屋さんからも、まったく売れないと返品されてしまいました。
 
わかっていたものの、友人に見せるのと、知らないだれかに手にとってもらうのとでは、 まったく違うんだなと痛感しました。そんなに甘くはありませんでした。
 
それでも、もう1軒リトルプレスを置かせてもらっていた 吉祥寺のちいさな本屋さんで、売り上げがあったのです。
しかも、単品だけでなく、5冊セットまで。
 
いったい、どんな人が手にとってくれたんだろう。
リトルプレス好きの学生さんかな? それとも、ヨーロッパ好きの人かしら?
 
こんな無名の作家がつくったリトルプレスを心よく置いてくれた「青と夜ノ空」さん、 「Cahier de voyage」シリーズを手にとってくれたお客さんに、ただただ感謝のきもちでいっぱい。
 
このたまらなくうれしかったきもちと、たくさんのありがとうが届きますように。
 
やっぱり自分の感性や、共感する世界観を表現する場は、
これからも大切にしていきたいし、
そのための勇気をもらったできごとでした。

64. 『バッド・ジーニアス』新宿武蔵野館

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映画好きの友だちに「最近でダントツおもしろかった!」と絶賛されて、あわてて見に行ったのが、こちらのタイ映画。
 
高校生のカンニングのストーリーで、手汗が出るけど、とにかくおもしろい、という前情報だけをたよりに、新宿武蔵野館に行ってきました。
 
数年ぶりに行ったら、あの武蔵野館がリニューアルして、ずいぶんきれいになっていてびっくり!そして、もうすぐ終わっちゃうから、わたしのように駆け込みで見にきた人たちがたくさんいて、平日のお昼間だったのに満席でした。なんだか、うれしい。
 
あらすじは、タイの有名進学校に転入した天才女子高生のリンが、初めての友人であり、女優を目指すグレースのテストを手伝ったことがきっかけで、グレースの彼氏のパッドから、あるビジネスを持ちかけられます。それが、テストの答えをお金で売るというもの。貧しい父子家庭で育ったリンは、親を苦労させないだけのお金を、裕福な家庭に育ち勉強が苦手なグレースやパッドは、親を安心させる成績が欲しかったのです。
 
カンニングのよい方法を思いつき、グレースとパットを中心に、リンの“お客さん”は続々と増え、生徒たちは成績があがるなか、最後の難関として待ち受けていたのが、アメリカの大学に留学するために世界各国で行われる大学統一入試「STIC」でした。世界規模のプロジェクトに挑むリンたちは果たして…!
 
 
見終わった後、「おもしろかったーーー!!!」と思わず叫びたくなるほど、すごく良くできている映画だなと思いました。監督や俳優さんや制作チームに拍手をおくりたい。手汗をかきながら、ハラハラしっぱなしの2時間10分でした。
 
とにかくテンポがよくて、『ミッション・インポッシブル』のような爽快なアトラクションのような映画でありながら、背景には、タイの学歴社会や受験戦争、貧困という社会問題が描かれていたのが印象的。全体としてはスリリングな楽しさがあって、でも、深いメッセージがしっかり伝わってくるドラマなのです。
 
個人的には、リンのお父さん役に助演賞をあげたい。
 
娘がわるいことをしてしまったとき、まちがってしまったとき、それでも温かく包み込んでくれる、お父さんの愛の深さに、ホロリとしてしまいました。
 
お父さんがいたから、きっとリンも自分のことを許せたんだろうなと思います。

63. 『悲しみに、こんにちは』シネコヤ

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この夏、はじめて映画のタイトルを見たとき「あれ?」と思いました。
フランソワーズ・サガン原作の「悲しみよ こんにちは」ととてもよく似ているので、リメイクかなと思ったのです。でも、まったく別もののスペイン映画でした。
 
英題は「Summer 1993」。スペインのカタルーニャ地方の田舎町を舞台にした、少女のひと夏の物語です。
 
映画館で上映されていたとき、気になっていたものの見逃してしまっていた本作を、藤沢のシネコヤでやっと見ることができました。
 
物語は、主人公のフリダの母の喪中から始まります。ある病気で母を亡くしたばかりのフリダは、生まれ育ったバルセロナの街を離れ、自然豊かな田舎町に住んでいる叔父の家族と一緒に暮らすことに。従姉妹でまだ幼いアナは、フリダを姉のように慕い、叔父夫婦もフリダを温かく迎えてくれますが、フリダはなかなか素直になれず、彼らと心を打ち解けられるまでには、時間がかかるのでした…。
 
まるで、トリュフォーの『大人は判ってくれない』の少女版!
子どもと少女のはざまくらいの、繊細でみずみずしい感性がていねいに描かれていて、カタルーニャの田舎の景色も美しくて、とても贅沢な映画でした。個人的にも、とっても好きなタイプの映画。
 
本作がデビューで、ベルリン映画祭をはじめ、世界の映画祭で新人監督賞などに輝いたカルラ・シモン監督の、自身の子どもの頃の体験がもとになっているのだそう。監督の自伝というだけあり、フリダの心がとてもリアルに描かれていました。
 
叔父夫婦がやさしい人たちなのはわかっていても、かまってほしくて、困らせてしまったり、従姉妹のアナはとっても愛らしいのに、お母さんのいない寂しさから、いじわるしちゃったり…。
 
フリダの淋しさや、戸惑いや、苛立ちが、まっすぐに伝わってきて、なんだか昔の自分を見ているようでした。少女の心に、ただただ共感。
  
こんな小さな宝もののような映画に出会えて、よかったです。