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フィンランドから鎌倉へ。暮らし、旅、映画にまつわる日々のメモ

35. 長崎で出会った、船旅のフランス人夫婦のはなし

夏に長崎の小値賀島を旅したとき、
日帰りでおとずれた野崎島という小さな無人の島で、
船旅をしているフランス人のカップルに出会いました。
 
野崎の港にフランスの国旗がついている船がとまっていて、
興味をもった彼がまっさきに話しかけにいったのです。
 
彼らは50代で、子育ても終えて、あるとき決意をして仕事をやめて、自家用ボートを買い、3年前に南フランスのトゥールーズを出発して船旅に出たそうです。
まずは大西洋を横断して、カリブ諸国を旅し、はるばる太平洋をわたり、ニュージーランドインドネシアシンガポール、タイ…とオセアニアや東南アジアをとおって、海の景色や陸の景色、異国の人たちとの交流を楽しみながら、その後、沖縄、九州と北上してきたところでした。
 
自家用のボートで、船の旅。それも3年目…!
はじめその話を聞いたとき、そんなことってできるのかな?と、あたまにハテナがたくさん浮かび、映画を見すぎのわたしは、海賊におそわれたり、どこかの国家機関に怪しまれたりはしないか、おっかなびっくりでした。
 
寒い冬のあいだはボートを港に泊めて、フランスに帰って過ごしているそうで、
ちょうど帰国前のタイミングで東京に来ていたので、夕ごはんを一緒に食べることに。
 
「海賊はいないの?海はあぶなくないの?」
わたしが思わず子どものような質問をすると、
奥さんのステファニーはやさしい表情で肩をすくめながら、
 
「フィリピンより南は通らないようにしているし、海賊のいない海を選んでいるわ。それよりも、天気の方が心配。ハリケーンやストームは避けるようにしているけど、恐ろしいわね。」と答えてくれました。
 
太平洋をわたるときは、寝ても覚めても海の上。
3週間ちかく、お互いの顔しか見ないときもあるのだそう。
 
これ以上にないくらい、きっと一生に一度の機会で、
だれでも真似ができるわけではない、なんてすてきな冒険だろうと、彼らの選択に敬意を感じました。
 
コンサルタントをしていたご主人と、ファイナンシャルプランナーの奥さん。
すこし意外なことに、もともとはバリバリのビジネスマンだったのですね。
 
20代のお子さんが2人いて、もう子どもも大きくなったから、
自分たちのやりたいことをしようと、旅に出たそうです。
 
自然が好きで、芸術が好きで、食べることが好きで、好奇心旺盛。
まさにフランス人らしい趣向のおふたりですが、とくに印象的だったのが、おとずれる国ひとつひとつに、ものすごく関心をもって、人の暮らしや歴史、文化をじっくりと観察しようとする姿勢でした。
 
日本人はどう思ってるのか?
きみたちはどう感じてるの?
 
するどい質問を投げかけられて、はっきりとした答えを自分のなかで見つけることができず、わたしはすこし情けない思いをしました。
それでも、ちゃんと日本のことを見てくれようとしている人たちがいることはとってもありがたいことです。
 
50代になってから、人生をかけた旅にでる。
またひとつ、すてきな大人の夢に出会いました。