36. 『永い言い訳』横浜ブルク
いつだったか、映画のパンフレットかなにかで西川美和監督のインタビューを読んだとき、「嘘」に興味がある、というような内容のことが書かれていて、ものすごく印象的だったのを覚えています。
人が嘘をつくときには、何かしらのドラマがある。
だから、嘘をテーマにした映画を撮るのだと。
嘘はきらい、とかんたんに人は言うけれど、
ちいさな嘘のひとつ、ふたつもつかずに、暮らしていくこともなかなかむずかしい。
外国の友だちに、日本人の”建前”はきらいだと言われると、ほんとうにそのとおりで、めんどくさい文化だなと思いながらも、少なからずの建前(ちいさな噓)を、わたしもふだんあまり意識もせずに使ってしまっているのだと思います。
じゃあ、嘘をつくときって、どんなときなんだろう。
どうして嘘をつかなくてはいけなかったんだろう。嘘をつくことって、そんなに悪いことなの?
『蛇苺』からはじまり、『ゆれる』『 ディアドクター』『夢売るふたり』と、これまでさまざまな人生の”わけある嘘”と、それをめぐる人間の心模様を描いてきた西川美和監督。最新作の『永い言い訳』もまた、嘘とは何か、真実とは何か、を問う類の作品です。
ある日突然亡くなった人が、
悲しみも、感謝も、すなおに感情表現ができないほど、
複雑に絡まって、やりきれない想いが残る相手だったなら…。
もっくんの演技が、表情が、とにかく心に染みました。
深津絵里さんも、年を重ねるごとに深みが増して、美しい人だなとあらためて思いました。
遺されたものどうしで育まれていく絆が
けっして大袈裟ではなく、ただそこにあるものとして映し出されていて、
不器用ながらに、わずかな希望もあるような、
そんな誠実な描き方にとても好感をもちました。
西川美和さん。
今いちばん新作が待ち遠しい監督のひとりです。